心をひとつにする会社変革法。物語が社員を結び付ける。
会社はひとの営み。ひとを結び付け、もっとも大切な意味をひとりひとり自分のこととして共有するのが物語です。
個人個人の時代になった現代だからこそ、思いある会社には物語が必要です。
目次
思いが伝わらない会社の社長
ある企業にコンサルティングに行ったときのことです。
その社長は創業社長で20年経営をしていました。
思いも確かなもので、同じ経営者仲間からも尊敬されている方でした。
しかし、その社員たちには、その思いがなかなか伝わらず、かえって反目的な態度をとる社員もいて、長年悩んでらっしゃいました。
しかしあることをきっかけに、社員たちが「はじめて社長や、この会社というものがわかった」と述べるようになったのです。
それは・・・
会社にブレークスルーを生み出すのは、経営者、そして社員が共有する思いです。
たまたま市場環境が上げ潮に乗って成長することもありますが、社内に共有する思いのない会社の場合、上げ潮が去ったとたんにガタガタになってしまいます。
上げ潮のときも、引き潮のときも、会社を柔軟に力強く結束させ、フツフツとした意欲をもって取り組むのはそこに「思い」=「本質価値」があるからです。
そんな「思い」=「本質価値」ですが、もし弱点があるとすれば、目に見えないということ。
目に見えないから、どうしても目に見えやすい売り上げや利益の数字が第一の判断基準になってしまいがち。もちろん重要なものですが、売上や利益はあくまでも会社を継続させる手段です。それを目的にしてしまうと、やはり上げ潮がなくなった瞬間に人の心はバラバラになります。
目に見えないだけで、実は人の心をひとつにしてどんなときでも顧客に指示される価値を作り出すのは、やはり目に見えない「思い」=「本質価値」なのです。
思いを実体としてわかるふたつの方法
でもそうはいっても、目に見えないものを少しでもリアルにありありとわかりたいのがわたしたちというもの。
ひとつには、言語化することですね。
目に見えないものを言葉化するもので、わたしたちの意識の中に急に実体をもって感じられてきます。
わたしたちはどんな思いでどんな価値を実現したくて事業をしているのか。
ぜひ、言語化することをお勧めします。
ただ言語化については、それが明確化どうか納得できるかどうかは別にしても、「理念」や「ミッション」のような形で額やサイトで掲げている企業が多くあります。
言語化にも多くの課題(おもしろさ)がありますが、それは別の機会に譲りまして、言語化したそんな「思い」を、単に言葉だけですまさないように、社員ひとりひとりのものにするためにはどうすればいいか、というものが二つ目になります。
それが、「物語」です。
物語とは、桃太郎や浦島太郎のような、まさにそんな物語です。
主人公がいて、出来事があって、結末を迎える。
そんな、わたしたちが子供の時からよく親しんでいた物語です。
歴史上、車輪がなく紙幣もない地域はありましたが、物語がなかった地域はひとつとしてありません。わたしたちは原始からいままで、物語によって、世界や人生の縮図を学び、知恵を深めてきました。
実際、わたしたちの脳の記憶そのものの、物語でできています。
エピソード記憶といいますが、わたしたちは長期の記憶は、出来事のつらなり―物語として記憶するようにできているのですね。
物語は、人間という構造が生み出している、人間が人間になるための、本能的に獲得した「能力」なのです。
人間は、物語によって、目に見えないものを自分のこととして獲得してきました。
子供は、正義、という言葉はいくら論理的に説明してもわかりませんが、桃太郎を聞かせたらすぐに「正義とはどういうことなのか」を理解しますよね。
実際、大人同士の会話でも、「たとえば、こんなときにこうすることを正義というんだよ」のようなたとえ話をつかって会話をしています。
そのときお互いのイメージの中に、その出来事がパーっと想像されているわけです。
知らず知らずのうちに、物語こそがもっとも伝わりやすいことをわたしたちはわかっているんですね。
思いを結び付ける物語の力
現代こそ、経営に物語が必要なときです。
たとえば、「お客様が大事だ」というあなたの思いがあったとします。
しかしそれをいくら社員にむかって「お客様を大事にせよ」なんて伝えても、社員たちにはまず伝わらないと言っていいでしょう。
ときは、当たり前のことを押し付けられている、としか感じられないこともあります。
なぜでしょうか。
それこそが、「物語が共有されていないから」なのです。
「お客様が大事だ」というあなたの思いは、なぜそう思ったのか。
それには、かならずあなた自身の過去の経験があるはずです。
お客様のおかげで、今のヒット商品がうまれたからかもしれません。
お客様の感謝が、どん底の時期を乗り越えた原動力になったからかもしれません。
創業期につらかったときに、お客様に助けられたという経験かもしれません。
そんなあなた自身の物語が背景にあるから、だから「お客様が大事だ」というあなたにとっての思いが生まれてきているはずです。
社員には、「お客様が大事だ」という言葉の意味はつたわっても、そんなあなたの物語が共有されていないのです。
社員が本来欲しいのは物語であり、物語を通すことによってはじめて、社員は自分のこととして「お客様な大事だ」という「真実」を自分のものとすることができるのです。
そこに、働く意味やすばらしさを感じることもあるでしょうし、今の自分の仕事の重みを感じることもあるでしょう。
そういった、目に見えない思い=本質価値は、物語を通すことによって自分自身もその物語の主人公して追体験することで、身につけていくのです。
物語で社員たちの気持ちがひとつになった
冒頭の社長に、わたしはこうお願いしました。
「創業前から現在までの社長の物語を社員の前で話してくれませんか?」
決して口上手な社長ではないので、わたしがインタビューアとなってお話を促進することで、創業前から現在までの経験を物語として語っていただきました。
最初はポツポツ話しづらそうでしたが、次第に熱を帯びてきて、将来の夢まで語るようになってきました。
すると、どうでしょう。
普段の訓示は流して聞いている社員たちは、社長の話に聞き入っていたのです。
入社して何年もたつ社員にとってもはじめての話が多く、じっと社長を見つめていました。
そのとき社員たちははじめて、社長・会社の物語を聞くことによって、自分自身で追体験したのです。
「だから、こんな訓示をおっしゃるんだ」
その意味がリアルにありありと実感できたのです。
社員たちは、その時間をとおして、「会社の物語」の一員となったのです。
いまこそ経営に物語を
目に見えない「思い」=「本質価値」は、物語を通して、社員ひとりひとり、会社全体のものとなります。
経営を管理するのは数字かもしれませんが、人の意欲を引き出すのは物語です。
物語を語り、共有し合うことによって、人の営みである会社というものはひとつに結びつくのです。
そこには社長の物語だけでなく、日々現場で奮闘する社員ひとりひとりの物語もあります。
そんなひとりひとりの物語をも集め、共有していくことによって、さらに会社はつながりしなやかに強くなっていきます。
現場同行、ミーティング、飲み会などなど、ひとがふたり以上集まる場は、すべて物語共有の場です。
経営に物語を。
会社のブレークスルーは、物語の共有がアルファでありオメガなのです。
P.S
これからもブログでお届けしますので
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こちらも役に立ちます(「一言で社員のやる気を変えられるリーダーの言葉術とその秘訣とは」)
執筆者紹介
オフィスオントロジー
代表 友成治由
人と組織の可能性と創造性を引き出すメンター
人と会社を伸ばすメンタリングの専門家
10年超にわたる起業家育成や変革人財育成経験から得た実践知と、意欲心理学によるメンターメンタリングで人が本来持っている意欲、可能性、価値を引き出す。
主体性/リーダーシップ開発、メンター育成、メンター制度構築、チーム活性化などを支援。
哲学存在論専攻。
宮崎県出身。今もなまりはとれない。
経営メディア『経営プロ』にて執筆コラム掲載。
コラム「メンタリングで人や組織の可能性を引き出す」など
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