パワーある組織一体化ができる「アラインメント」の方法
無理だと思っていた目標も、あっさり実現したりします。
組織のひとりひとりの気持ちがひとつになって方向性を合わせること、これを「アラインメント」と言います。
今日は、組織にアライメントを生み出す秘訣をお話します。
目次
- ○ アラインメントの重要性
- ○ アラインメントの大前提
- ○ アライメントづくりで陥りがちな間違い
- ○ 「共有ビジョン」でアラインメントを生み出す
- ○ 従来型アライメント構築の力点の置き方
- ○ 「個人ビジョン」を理解し合う活動のポイント
- ○ おわりに
- ・執筆者紹介
アラインメントの重要性
組織のリーダーでいる限り、アラインメントを考えるのは第一優先事項です。
そう言い切りますね。
アラインメントという言葉は、ピーター・センゲによる『学習する組織』で提唱されている「メンバーのベクトルを合わせて、協力体制をつくること」ですが、教えられる前から直観的にわかるものですよね。
しばらく、そんな、わかっていることを言います。
組織はなんのためにあるのか?
ひとりじゃできないことをやるためです。
それが嫌なら、全部自分ひとりでやればいいのです。
たとえばわたしひとりでは、研修するだけで手いっぱいになりますが、わたしの研修を広める協力をしてくれる人がひとりいるだけで、3倍にも4倍にも、価値を広げ自分たちも社会もよろこばせることができます。
社長ひとりだけじゃ、どんなに能力が高くても社長ひとり分しか成果は上げられません。でも社長が苦手なところや、社長だけではできないことを一緒にやってくれる人がいると、仕事のスムーズさは段違いになりますし、できることの範囲も大きさも広がっていきます。
結果、社長個人も幸せになります。やってくれる人も幸せになります。お客様や社会も幸せになります。
お互いがお互いの強みを補うと、1+1以上の力が発揮されます。
組織に成し遂げたい夢や目標があれば、そこにむかってみんなの力を、みんなと強みを合わせると、とんでもないことも実現します。
ひとりだけでは見られなかった、すばらしい景色を見ることができるのですね。
リストアップしてみると、経営理念浸透があったり、マネジメントがあったり、チームビルディング活動があったりします。
表に見える施策は会社によって違いますが、目的は一緒です。
アラインメントは、組織のリーダーでいる限り、考える第一優先事項です。
アラインメントの大前提
そんなアラインメントのつくり方のキモですが、ちょっと大切なご注意を。
アラインメントとは、組織を機能させることとは違う、ということです。
「組織を機能させる」という点だけクローズアップしてみると、たとえばマニュアルによって仕事や行動を規定したり、評価制度や賞罰制度によってコントロールするだけになります。
組織を機能させるという目的は達するわけですし、それで社員が動くと「一見」組織がまとまっているように見えます。
しっかりコントロールするという面は大切ですが、それはアラインメントではありません。
アラインメントの基準は、組織のメンバー、社員ひとりひとりに「自発性」があるかどうかです。
組織コントロール手法だけクローズアップされると、社員は「管理でガチガチ」「怒られるからやる」「嫌だけどやる」のように感じてしまいます。
「歯車のように感じる」「機械のように感じる」「働く意味を感じない」「会社はどうでもいい」といった気持ちになるのですね。生活するために業務はやりますが、組織へのアライメントをもっているわけではありません。
大企業ならばそんな職場でも企業規模のバッファーで数年程度は何とかなりますが、中堅・中小企業でそれをやってしまうと、モロに収益に反映されてしまいます。
従来の一般的なマネジメントやリーダー論は、そんな「機械的な生産性」を求めて「人間的な非生産性」を生み出していました。
しかし、もうすでに「人間的な生産性」こそが、生産性の主役の時代です。
つまり、改善、改革、問題解決への意欲、創造性、発想力、人間関係の構築力、共感力などなど、人間が起点になることが組織の生産性を決めています。
アラインメントとは、「『人間としての』方向性のベクトルの一致による協力体制」なのです。
アライメントづくりで陥りがちな間違い
アラインメントづくりで「ベクトルを合わせる」といっても何と何のベクトルを合わせることが重要なのでしょうか?
ここで「人間として」という部分が重要になります。
つまり「なぜ人ははたらくのか?」という問いが重要です。
抽象的に思われるかもしれません。
しかし現代の「人間の組織論」では、このふつうの人間の問いこそが重要なテーマであり、実際的なツールでもあるのです。
人間、というものを捉える場合、いろんなとらえ方があります。
人間は欲深い生き物だ、人間は人のために生きる生き物だ、人間は合理的経済性を求める
人間は政治的動物だ・・・
いろんなとらえ方があり、すべて人間のある側面を言い当てているでしょう。
いずれのとらえ方にも共通しているのが、人間は何か求めている、という点です。
強欲でも、崇高さでも、政治性でも、自己実現でも、ただ生きる、でも何かを求めて生きており、それを得るためにふさわしい活動をそれぞれしています。
正邪の問題は別にして、そのようにして人間が生きる、という構造は同じです。
さて、組織ではたらくのも、その組織に何かを求めてはたらいています。
お金はまずあるでしょうし、働きがい、能力発揮、安定した生活いろいろあります。
細かく分ければ、中身も全員違います。
そのように求めているものは違っていますが、何かを求めていることは全員同じです。
この点が、アラインメントには重要です。
アライメントをつくっていくときには、何かを求めて生きているというこの人間としての普通のことを意識することが、決定的なのです。
組織をひとつにして活性化したいときには、組織の夢や理念や目標に方向性を合わせていこうとよくいわれます。まさにその通りなのですが、では何を合わせるのかといえば、この「ひとりひとりの何か」を合わせていくわけです。
しかしアラインメントがヘタな組織は、往々にして、組織の夢、理念、目標に合わせることばかりに目が向いて、「ひとりひとりの何か」を意識することを忘れてしまっています。
組織の夢、理念、目標を総称して「全体ビジョン」と呼びましょう。
「ひとりひとりの何か」を「個人ビジョン」と呼びます。
アラインメントができないとき、往々にして
「全体ビジョン」に「個人ビジョン」をどう従わせるのか?
という構図になってしまっています。
それが噴き出てくると「上からの押し付け」「勝手な物言い」「下の事を考えていない」という不満やシラケとなって現れてきます。
これを放っておくと「全体ビジョン」と「個人ビジョン」との対立で、組織にいる人々の気持ちがバラバラになるのですね。
では、そうならないためには、どうすればいいのでしょうか?
「共有ビジョン」でアラインメントを生み出す
従来の「機械的組織論」でも一般的な「理念浸透活動」でも、組織一体化をテーマにする場合には、「全体ビジョン」の重要性ばかりがうたわれていました。
しかし人がその組織のために力を発揮しようと思うときとは、それによって「個人ビジョン」が目いっぱい叶うと思ったときです。
「ひとは、自分の求めていることが叶うとき、力を尽くす」
ごく普通のことですが、そんなごく普通の人間の営みがこれまでは軽視されていました。
「全体ビジョン」はひとりひとりが結ぶ旗印として重要です。
同時に、そんな組織へひとりひとりがみずから結びついていくために「個人ビジョン」も同じくらい重要なのです。
もちろん、だからといって「個人のワガママ」のために組織は翻弄されるべきだ、と言っているわけでもありません。
全員がワガママ通し放題ですと、「みんなで力を発揮しあって、ひとりでやる以上の目標を実現する」という、そもそも組織自体が瓦解してしまいます。
「全体ビジョン」に「個人ビジョン」を従わせるだけだと、個人はやる気を失う。
「個人ビジョン」だけに「全体ビジョン」が従属すると、組織は瓦解する。
「全体ビジョン」も「個人ビジョン」も方向性がてんでバラバラだと、ただ集まっただけで、組織にもならない。
とすると、残る道はひとつです。
「全体ビジョン」と「個人ビジョン」が、どちらともが尊重し合う。
これこそが答えです。
ひとりひとりの個人は、「全体ビジョン」の意義や重要性をしっかり理解し尊重する。
組織は、ひとりひとり個人の「個人ビジョン」を理解し合い、尊重する。
そうやって、お互いがお互いを理解し合って生み出すあらたなビジョンを、ピーター・センゲは「共有ビジョン」と呼んでいます。
全体と個人、どちらかの一方的な関係ではなく、それぞれが尊重し合っている。
全員で目指すもの、という合意がありながら、ひとりひとりの自分ごとになっている。
それが「共有ビジョン」です。
アライメントとは、この「共有ビジョン」を生み出す活動のことを言うのです。
従来型アライメント構築の力点の置き方
従来型の多くの場合、
「ひとりひとりの個人は、「全体ビジョン」の意義や重要性をしっかり理解し尊重する。」
に重点が置かれていました。
これも変わらず重要ですが、こちらばかりにエネルギーがおかれがちなので、むしろ
「組織は、ひとりひとり個人の「個人ビジョン」を理解し合い、尊重する。」
をより意識することをお勧めします。
「個人ビジョン」はごく個人的なものなので、ともするとさらりと流されがちで、意識して取り組まないと理解されることが少ないのです。
しかし、人とは本来、自分のことを理解してくれる相手のことを自分も理解しようとし、尊重も尊敬ももつようになります。
ごく身近な例ですが、
「子供が急病になったから、すぐに帰って看病したい。」
そんな申し出が社員からあった場合、どうでしょうか?
たしかにその時点で業務に多少の影響はあるでしょう。
しかしそれでも「大丈夫だよ、まかせておいて、すぐに帰りなさい」と組織のリーダーが言ってくれたら、どれだけ安心するでしょうか。
きっとその社員は、
「わたしの大切にしていることを、大切にしてくれている」
そう理解し尊重してくれたことに感謝の思いを抱くはずです。
そういった社員が、その後に力を発揮しないことは非常に考えにくいでしょう。
また、別の社員が同じようなことに遭遇した場合、協力し合わないことも考えられません。
普段から「個人ビジョン」をまずはリーダーが、そして組織メンバー同士が、よく聴き、理解し合って、尊重し合っていけば、「全体ビジョン」の意義や重要性の浸透は実はめちゃくちゃ早いのです。
そんな組織への安心感、信頼感があるから「組織のために」という言葉も、無理なく自分のものになるのです。
理解しあった組織としてひとりひとりがみんなで作り上げて「共有ビジョン」ができていると言えます。
「個人ビジョン」を理解し合う活動のポイント
「個人ビジョン」を理解し合う活動には、それこそいろいろあるはずです。
「個人ビジョンを話し合う会」のようにあらためて設けてもいいでしょう。
「飲み会」の役割は、まさにここにあります。
ふだんのチームコミュニケーションでも、出張やOJTのときでも、あらゆる機会を見つけて、「個人ビジョン」を語り合い、理解し合うことは、どんなコンサルの施策よりも効果は大きいでしょう。
「個人ビジョン」を理解し合い、「全体ビジョン」の意義、重要性を確認し合うことで、全員が自分のものになる「共有ビジョン」が生まれます。
ポイントは、4つです。
一つ目は、「意識的に」やること。
みんなでアライメントをつくろうという意識をもって、堂々と取り組むことです。
二つ目は、「あたたかく聞き合う」こと。
なんでも語って話していい、聞いてくれるという安心、安全の雰囲気が深いコミュニケーションを促進します。
三つめは、「認め尊重し合う」こと。
どの「個人ビジョン」が優れて、どれがダメ、なんてありません。
四つ目は、「お互いに率直すなおになり合う」こと。
あたたかく安心安全、認め尊重し合う雰囲気の中で、率直にすなおに語り合いましょう。
それによりメンバー同士の強みも弱みも、何を大切にして何を協力できるのかも、「全体ビジョン」との「個人ビジョン」のつながりもわかってきます。
あえてハードルが高いと言えるのは、一つ目と四つ目ですかね。
「意識的にやる」って、もしいままでやったことなければ、はじめはたいがい「しらーっとした」雰囲気になってしまうものです。
「なんか、変なこと、面倒くさいこと言ってる」って。
なるんだから、もうしょうがない(笑)
それは、リーダーの役割だと思って、「やろうよ」と笑って堂々とピエロになりましょう。
あらゆる組織変革も改革も、はじまりはひとりの意志からです。
四つ目もそうですね。
「率直にすなおに」って、まあ、普通の社員にとっては怖いものです。
全然でません。
そんなときは、リーダーからさらけ出して率直にすなおになって、メンバーに対しては根気強くまいりましょう。
一つ目も四つ目も、最初は勇気がいりますが、やってみると案外心地よいものです。
「リーダーの仕事をしている!」
そんな充実感さえ感じます。
そして、最初の勇気の何倍もの果実が必ず返ってきます。
それくらい、組織はアラインメントでひとつになり、ひとりではできなかったとんでもない夢、目標、「全体ビジョン」を実現できるようになります。
おわりに
アラインメントを生み出す上で、実はキーとなるだろうと思っていることがあります。
経験則ですが、わたし自身、またアラインメントをみごとにつくる人たちと接して強く感じることです。
それは、さっきの
「なるんだから、もうしょうがない(笑)」
の部分です。
要は、「人間的な生産性」を考える場合、人間って強くもあれば弱くもあるよ、という事実にすなおになることだと思うのです。
ひとって強いときはめちゃくちゃ強い。
でも弱いときも、ある。
それはそれで、ダメなんじゃなく、だからこそ愛すべき存在だよ。
そうやって付き合って、みんなで一緒にいい組織、いい仕事にしていこうよ。
そんな気持ちですね。
「覚悟」と言っちゃ強すぎるし、「人類愛」といっちゃむずがゆい。
でもその中間くらいで、「しゃーない、よっしゃ、やるか!」くらいが、リーダーも自然体で人間性や魅力も発揮されるのでは? と感じます。
まずは一緒にピエロになってみませんか?
こちらも役に立ちます(「まとまる組織作りに役立つ「チーム・ダーウィン13の法則」」)
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執筆者紹介
オフィスオントロジー
代表 友成治由
人と組織の可能性と創造性を引き出すメンター
人と会社を伸ばすメンタリングの専門家
10年超にわたる起業家育成や変革人財育成経験から得た実践知と、意欲心理学によるメンターメンタリングで人が本来持っている意欲、可能性、価値を引き出す。
主体性/リーダーシップ開発、メンター育成、メンター制度構築、チーム活性化などを支援。
哲学存在論専攻。
宮崎県出身。今もなまりはとれない。
経営メディア『経営プロ』にて執筆コラム掲載。
コラム「メンタリングで人や組織の可能性を引き出す」など
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