中小企業の離職率と理由調査~厚生労働省の統計を見る~
社員が辞めると、、、
業務にしわ寄せがくる、残る社員に動揺が走る、再募集に時間もコストもかかる、新規採用した社員の教育費用・期間がかかる、など経営にさまざまな影響があります。
今回、企業規模別で離職状況を調べてみました。
特に中小企業にとっては、なかなか厳しい現実が現れています。
しかしだからこそ、「社員を大切にする中小企業」はより存在感を増せるのです。
目次
- ○ 厚生労働省による3年以内の離職状況
- ○ 企業規模別の3年以内の離職状況
- ○ 離職する理由
- ○ できることはある。
- ○ 参考として業種別離職率
- ・執筆者紹介
厚生労働省による3年以内の離職状況
新規学卒就職者の3年以内の離職状況が、令和3年(2021年)10月22日付で厚生労働省のホームページで公表されています。
調査時点は、平成30年(2018年)3月卒業者です。
まず全体的な離職率は、ずばりページのトップタイトルにも記載されていました。
「就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者36.9%、新規大卒就職者31.2%」
でした。
厚生労働省の統計では、中卒、高卒、短大など、大卒と別れています。
ついでですので挙げると、中卒55.0%、短大など41.4%tとなっています。
以下話をわかりやすくするために、大卒に絞ってお話しますね。
上記どの区分でも傾向は同じです。
今後も含めて、統計データはすべて以下の厚生労働省のサイトからの引用です。
企業規模別の3年以内の離職状況
企業規模別でみましょう。
企業規模別では、
5人未満…56.3%
5人~29人…49.4%
30人~99人…39.1%
100人~499人…31.8%
500人~999人…28.9%
1000人以上…24.7%
まずパッと見てわかるのが、企業規模が小さいほど離職率が高いという事実です。
全体平均が31.2パーセントでしたが、なんと、企業規模が500人を超えてやっと平均以下になるのですが、日本の企業の75%(全企業に占める499人以上の企業数割合)が、平均より高いのですね。
とくに30人未満の会社は、10人採用しても5人は3年以内にはもういません。
そもそもが大企業に人財が集まる中、半分も辞めてしまうのに、採用ばかりに時間コストをかけ続けるのも、なかなかしんどいものがあります。
社員の定着率というのは、とくに中小企業にとっては、優先度を高くしていい経営問題です。
とはいえ、ここでわたし自身のスタンスは述べておきますね。
わたし自身は、「定着率が高ければいい」とは単純には思っていません。
経営者にとっても社員にとっても、「ただ残す/残る」だけの駆け引きだけが横行して、お互いが険悪や不信になったり、両者にとって「絆はただお金のやりとりだけ」という関係ならば、どちらも不幸だと思っているからです。
ならば、完全に「給与と成果の駆け引き」だけでドライに人材政策を考えた方が、どれだけすっきりすることでしょう。会社というものを利益創出機械と考えるならば、それも理にかなっていると思います。
しかし、多くの経営者にとって、離職率の低さ(定着率の高さ)はそれだけではないものをもっているはずです。つまり「会社が好き」「この仕事が好き」「この人間関係が好き」など、人間として意味のある、つながりのある定着率です。
定着率の高さには、もちろん両社が合意できる給与体系は必要条件ですが、やはり人間同士がはたらく場として、経営者も社員もきもちよく仕事する場にしたいと思っているのではないでしょうか。
離職する理由
では、その離職理由についてはどうなのでしょうか?
下記は、平成27年度の厚生労働省統計で新卒に限らない理由ではありますが、大いに参考になります。3つまでの複数回で調査した統計です。
一位から順番に並べました。
①労働条件(賃金以外)がよくなかったから …27.3%
②満足のいく仕事内容ではなかったから …26.7%
③賃金が低かったから …25.1%
④会社の将来に不安を感じたから …24.2%
⑤人間関係がうまくいかなかったから …17.7%
⑥能力・実績が正当に評価されなかったから …15.9%
⑦他によい仕事があったから …15.1%
⑧いろいろな会社で経験つみたいから …12.2%
⑨雇用が不安定だったため …11.0%
⑩結婚・出産・育児のため …6.8%
⑪病気・怪我のため …4.8%
⑫家族の転職・転居のため …4.1%
⑬介護・看護のため …2.3%
※その他 …15.9%
第三位に「③賃金がひくかったから」があります。
平均給与額で言っても、たしかに大企業ほど高く中小企業ほど低いという統計が出ていますから、いきなり高給与を保証できないことは中小企業の宿命ではあります。
が、それでも第三位です。
これを見ると、わたしたちにできることは実に多くあることがわかります。
たとえば「①労働条件(賃金以外)がよくなかったから」とは、労働時間の長さや有休休暇の取りやすさなどですね。
生産性を上げたり、役割を分担したり、協力しあったり、休みを取りやすい制度や風土をつくることによって、「わたしたちの努力」でできることが多くあります。
「②満足のいく仕事内容でなかったから」についてはちょっと奥が深いので一言では言い切れませんが、要は社員の意欲と成長につながっているかどうかです。
経営者の不満として、よく「うちの社員は、仕事は与えられるものとおもっている」という主体性の無さを嘆いています。
一報、社員側からいえば「うちの会社は、ただ担当させられるだけ。まるで歯車のようだ」となるわけです。
「仕事を担当させている」のか、「仕事で能力や創造性を発揮できるようにしている」のかで、同じことをさせても、その意味は全く違ってきます。
「④会社に将来を感じたから」
「⑤人間関係がうまくいかなかったから」
④は財務の問題は大切だという大前提で、一方、どんな状況でもリーダーが頼もしければ、なんとかできる!と社員は思えるものです。
⑤はまさに人間同士の関係の問題ですよね。
つまり上記二つ、つまり、リーダーシップ、人間同士のコミュニケーションについては企業規模に関係なく取り組むことができます。
「⑥能力・実績に正当な評価がされなかったから」も、取り組むことができますよね。
そう考えると、中小企業でも、やれることはまだまだあります。
ちなみに
⑦他によい仕事があったから
⑧いろいろな会社で経験つみたいから
については、個人のキャリア観に関わる部分です。
会社の魅力を高め続けることは必要である反面、一定の割合で必ず現れる部分ではあります。
大企業はこのあたりは、「仕事のフィールドが多岐にわたる」ことで対応しているといえます。総合職であれば、さまざまなプロジェクトがあったり、部署移動もあったりして、さまざまなキャリアを開発する環境と制度があります。
「意欲と成長」とは「さまざま新しいことを経験する」ことも含みます。
一方、中小企業の場合、どうしても業務範囲が限られるため、同じ仕事や業務内容を何年も続ける場合もあります。やる気のある社員ほど、キャリアを開発できている、とは思いづらくなります。
意図的に「あたらしいチャレンジ」や「あたらしいプロジェクト」を行い、人が持つ創造的な仕事への欲求を開発していくことも大切になるでしょう。
できることはある。
こう見てみると、自分たちの努力でできることはいろいろとあります。
統計としてみた場合に、中小企業の方が大企業よりも離職率が低くなることは、10年後でもほとんど考えにくいことでしょう。
しかし、1社単位、つまりあなたの会社としてみた場合ならば、十分に離職率が低く、愛着度やエンゲージメントの高い会社ができそうだとも思いませんか?
ひとつひとつ見ていくと、できることは思う以上にあるものです。
まずは、リーダーシップや上司-部下間、チーム間コミュニケーションの改善などは、やる気さえあればいますぐでも取り組みはじめられます。
労働条件の改善も「決め」の問題です。「〇〇までに改善するぞ」という「決め」ありきで、早くから取り組むほどに成果が出るのも早くなります。
中小企業にとって、いい社員がいるかどうかは最大のつよみです。
そのため、採用もそうですが、採用した後の社員がいかに成長し、長く活躍してくれるかも同じくらいに重要です。
今回は厚生労働省の統計でしたが、他の民間会社が出している統計をみても、離職理由にはおおよそ似ています。ならばそこに、人間が「はたらく」ことにもっている普遍的な欲求が詰まっているともいえます。
今回の記事は、わたし自身、社員や組織に関して経営者に何をしてあげられるかを考えていたときの備忘録として書きました。
あなたの会社でも、「できることチェック」のように見てくださると、具体的な取り組みにつながるかもしれません。
参考として業種別離職率
参考までに業種別離職率も掲載しておきますね。
同じく出典は、上記厚生労働省のサイトからです。
「電気・ガス・熱供給・水道業」と「鉱業、採石業、砂利採取業」が目立って低く、「製造業」も低い。
うーん、こうやってみると、「あまり人とかかわらずに済む」ものですね…
先ほどのトップ2、「①労働条件(賃金以外)がよくなかったから」「②満足のいく仕事内容ではなかったから」もその内実には、人間関係が横たわっていそうですね。
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執筆者紹介
オフィスオントロジー
代表 友成治由
人と組織の可能性と創造性を引き出すメンター
人と会社を伸ばすメンタリングの専門家
10年超にわたる起業家育成や変革人財育成経験から得た実践知と、意欲心理学によるチェンジメンタリングで人が本来持っている意欲、可能性、価値を引き出す。
主体性/リーダーシップ開発、メンター育成、メンター制度構築、チーム活性化などを支援。
哲学存在論専攻。
宮崎県出身。今もなまりはとれない。
経営メディア『経営プロ』にて執筆コラム掲載。
コラム「メンタリングで人や組織の可能性を引き出す」など
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