調査で判明。「理念あり」企業と「理念無し」企業の驚くべき収益の差
経営理念(パーパス、ミッション、バリュー、など)って、本当に役立つのだろうか?
何の役に立っているのだろうか?
理念が大切ですよ、と言っている私自身も時々考えてしまいます。
結論からいえば、経営理念なくても会社は成り立つ。
しかし、あることによって
「高収益で卓越した企業になれる」
わたしにとっても大きな道しるべになっている「ネタ元」をご紹介します。
目次
- ○ 経営理念はお金になるのか?
- ○ 卓越企業を生む7つの原則
- ○ 理念が独自性を生む
- ○ 理念が高収益を生む例
- ○ 理念と教育で、さらに利益水準が高くなる
- ○ さいごに
- ・執筆者紹介
経営理念はお金になるのか?
理念経営を志したり、「理念を大切にする」と口に出したことのある経営者は、一度や二度は
「理念は金にならない」
そんな批判ともあきらめとも似た言葉を聞かされたことがあるでしょう。
想いをもって経営に携わっている経営者ほど、そしていま現在はもがいている人ほど、そんな言葉に反論できずつらい思いをしていることを、わたしは知っています。
しかし、朗報です。
理念は、むしろ、堂々と探求していいのです。
きっと今すでに想いを持っている人は、ただ利益を稼ぐだけでなく、利益を稼ぎながらも、より大きな目的ももつ「卓越した企業」を目指していることでしょう。
宮田矢八郎さん著『理念が独自性を生む~卓越企業をつくる7つの原則』は、理念こそが高収益企業になる要因であると喝破した本です。
全国中小企業22万6千社の統計データを数値的に調査した結果、宮田さんは高収益企業の共通要員を見つけました。
それによると、「理念あり」企業と「理念無し」の収益力は、なんと1.7倍も違っていました。「理念無し」企業の平均経常利益額が2900万円に対し、「理念あり」企業は4900万円もあったのです。
統計の元のなったデータは2002年、発行は2004年の本で、古いとおっしゃられるかもしれませんが、調査したデータがTKCという全国の会計士・税理士が加盟している総合財務情報サービスの全国組織なので、まずデータ元は信頼できます。
また2002年といえば、日本においては大不況の真っただ中です。
日本のあらゆる企業が生き残りをかけて模索していた時代でもあり、好景気の「上げ潮」の恩恵をうけていないため、真に一つ一つの企業の取り組みこそが鍵になる時代でした。
しかもその内容が、時代時代で必要とされる「赤字の解消の仕方」「黒字にする方法」ではなく、経営とは何か?という時代をこえたテーマを扱っているため、今読んでも、相当の普遍性をもってわたしたちに訴えかけてきます。
卓越企業を生む7つの原則
この本では、ただ黒字を出すだけでなく、その収益率(経常利益率)が抜群に高い企業を「卓越企業」と呼んでいます。
当時、宮田さんの話を聞いた経営者からこんな質問があったそうです。
「赤字の脱却こそ喫緊の課題だから、その方法を教えてくれませんか?」と。
宮田さんは答えています。
「赤字の企業は、なぜ自分が赤字なのかわかっていないが、その原因が本当にわかるのは、自分が黒字になってからだ。黒字の企業は、なぜ自分が高収益でないのかわかっていないが、それがわかるのは自分が高収益の卓越企業になってからだ。つまりわたしたちは、一つ二つ上のレベルから振り返ってはじめてわかるのだ」
卓越企業を目指すならば、現状の対策だけを見るのではなく、一段二段上のレベルから見る。
たとえあなたの会社にも今喫緊の課題があったとしても、もしより卓越した状態を目指すならば、先にそんな卓越した企業の原則から理解し、実践していくのが大切なのですね。
早速「7つの原則」を以下に示します。
ただ、ほんのわずかなコメントは付しますが、すべてを説明するのはこの短い記事の趣旨ではありませんので、どうぞ原著にあたってください。
とはいえ7つ並べて見るだけでも、実践につながる気づきがあるはずです。
①利益の質を高めよ―守りより攻め、攻めより独自性
利益には質があります。低い順から、コストカットや固定経費削減。安い仕入れや外注、高い生産性。そして一番高いのが、「製品・サービスの独自性による利益」となります。
卓越企業は「製品・サービスの独自性による利益」を目指さなければなりません。
②戦略と管理の同時追求が卓越企業をつくる
戦略は高収益要因、管理は破綻防止要因。どちらも大切。同時に追求しましょう。
③着眼点の独自性が経営理念に体化し、利益に結実する
これこそが本書の主張です。
経営者個人の自己実現への道が独自の着眼点を生み、経営理念となる。そんな経営理念は利益に対して高い有効性をもちます。
④利益は、製品・サービス、事業構想、組織作りの独自性から生まれる
これらの領域についてのイノベーションによる独自性の開発こそ利益の源泉です。
独自性の開発は、激しい販売競争のまえにすでに勝てる状態をつくっているのであり、だから高収益につながっていきます。
⑤ヒット商品が燃焼10億円の壁を破り、ブランドの構築が燃焼30億円の壁を破る
ブランド構築段階になると、商品・サービスだけでなく、事業構想や組織作り、文化づくりなど、より広範にわたって理念によって形にしていく必要があります。
⑥経営者は「探求者」たれ
優れた経営者の特性とは「探求者」であること。自己実現への想い、社会貢献への想い、それを独自性のある形にするためのあくなき探求こそが卓越企業の経営者の姿なのです、
⑦管理会計を使いこなせ
ただ会計をするだけでなく、会計データからいかに経営としての実践情報を引き出し活用していくかが卓越企業への道です。
「7つの原則」。
渋沢栄一の「論語と算盤」を思い浮かべてしまいました。
理念も数字も大切。
戦略も管理も大切。
それらを同時に探求していくことが、経営者には求められます。
ただし、この本でもっともページ数も割いて、語気も強めてお話されていますが、その原動力は
「経営者の自己実現への想い(理念への想い)」
なのです。
・あなたの元々の想いは何なのか?
・あなたは、なんのために経営をしているのか?
・あなたは、いったい何ものなのか?
これらを「探求」することが、高収益の卓越企業への第一要因なのです。
理念が独自性を生む
なかでも第三原則、「着眼点の独自性が経営理念に体化し、利益に結実する」です、
「経営者の自己実現として事業をとらえることによって、はじめての事業の本質が理解できる」
続けて、
「自己実現という心理的要素は、事業の創造に独自性を与え、従業員に良質の動機づけをもたらす」
と述べています。
「自己実現」とは、心理学者エイブラハム・マズローによる「欲求5段階説」の最上位にある欲求です。
どんな人間も低次の欲求から高次の欲求までもっています。
下からいえば、生理的欲求(生存のための欲求)、安定の欲求(より快適な暮らし)、連帯の欲求(どこかに属したい、誰かと共にいたい)、自尊の欲求(仲間内で認められたい)、そして最上位に「自己実現欲求」が続きます。
最初の下4つは、「何かが足りないから、それを満たしたい」という足りないものを外に求める欲求であり「欠乏欲求」とも呼ばれます。
「自己実現欲求」は、自分の中にあるものを表現したい、自分自身の人生を生きたいという欲求であり、「成長欲求」とも呼ばれます。
もちろん人間にとってはどの欲求も欠かせない欲求なのですが、ともすると「欠乏欲求」だけ、―もっとお金が、快適さががほしい、もっと尊敬されたい、もっと認められたいなどなど―、そんな、外に外に欲しがるような欲求だけで、人生を過ごしてしまいがち。
気が付いてみたら、不満や満たされない想いばかり。一番大切な自分自身の本当に求める生き方がないがしろにされてしまいます。
自己実現欲求に生きると、自分にとって本当に大切なことを大切にしようとします。
「成長すべき自分、表現すべき自分、発揮すべき能力、実現すべき可能性、達成すべき使命…」
あなたにもきっとそんな想いがあるはずです。
そんな想いにまっすぐになること。
自己実現とは、月並みですが、「本当の自分とはなにか?」を問いかけ続けること。
あなたが、真にあなたらしい想いを忠実に問いかけ続け、それを「探求」すること。
それこそが「理念」であり、そのあなたらしい探求こそが、あなたにしかできない「独自性」を生むのです。
高い利益の源泉である独自性=イノベーションは、あなたの「問いかけ」と社会との接点の中に生まれてきます。
あなたの想いからくる着眼点や創造性や能力でしかできない、社会問題(顧客問題)の解決。
それこそが独自の製品やサービスであり、ビジネスモデルであり、組織構造となって形になってきます。
理念が高収益を生む例
具体的にみてみるとわかりやすい。
たとえば、「なんでもない遊園地」と「ディズニーランド」。
あなたはどちらに「高い価値」を感じるでしょうか?
あなたが従業員だったら、どちらに「誇り」や「やる気」や「使命」を感じるでしょうか?
差別化のしづらい宅配業界で、なぜクロネコヤマトはトップを走り続けるのでしょうか?
わたしはテレビ番組の「秘密のケンミンshow」が好きなのですが、なかでも各地域で長年愛されている「名物グルメ」のお店の物語を見ると感銘を受けます。
さまざまな都道府県で、地域の名物グルメを開発した発祥のお店があるのですが、その創業者には共通してこんな物語がありました。
「(たとえば)戦後まだまだ貧しい時代、この地域では出稼ぎの労働者やお金の無い中で頑張る学生たちがたくさんいた。だから、彼らに少しでも栄養のあるものをたくさん食べさせたい。そんな想いで試行錯誤しながら作ってきた。」
そういった、地域の人たちへの想いから、試行錯誤したり悩んだりしてできたものが、そのお店独自のメニューとなり、いつのまにかその地域のグルメとなってひろがっていった。
だから、大量のパスタの上にさらにトンカツがのっていたり、豚肉をたっぷりニンニクたれで提供したり、土地の海産物をおもいっきり入れた丼にしたり、一見すると「なんじゃこりゃ」のものばかりです。
でもそれこそが、「店主の想い」と地域のひとの状況・願い・問題と照らし合わさった、「独自性」=「イノベーション」だったのです。
「自己実現」とは単なるエゴではありません。
「自己実現」を探求していくと、それは純粋に人や社会を幸せにしたいという思いにもたどり着きます。
人間にはもともと、他者を幸せにしたいという欲求が備わっているのですね。
マズローは「自己超越」とも呼んでいますが、まことに自分らしい想いと能力で人や社会を幸せにできたとき、人間は真の幸福を得られるのです。
理念と教育で、さらに利益水準が高くなる
この本では、教育水準の利益への有効性の高さも指摘されています。
わかりやすくいえば、研修をよくやる企業は、あまりやらない企業にくらべて利益水準が1.64倍も高い、という統計です。
その理由として、産業心理学的なテーマでも「やる気を起こさせる要因」と「不満を起こさせない要因」は違うことが挙げられます。
「不満を起こさせない要因」、たとえば会社の方針や給与や作業環境など、これらは改善をしたら不満は減少するかもしれないが、やる気が生まれるとは限りません。
より重要なのは「やる気を起こさせる要因」を刺激することです。
仕事そのものの面白さ、達成感、責任や使命感などを、いかに従業員に考え、感じ、日々に活かしてもらうのか。これが重要です。
これらの要因がある従業員たちが、現場の仕事に責任をもって、意欲高く、創造性豊かに取り組むことは容易に想像できますよね。
高収益につながっていく理由です。
高収益企業にとっての教育-研修は「やる気を起こさせる要因」を刺激し、育てるために行うもの。
理念や想いや、そこから生まれた独自のノウハウをしっかりと徹底して伝えることで、会社や商品や顧客への想い、誇り、責任、喜びなどを浸透させ、心からやる気を引き出すために行うものです。
従業員たちも同じ人間です。
教育-研修によって、従業員たちの欠乏欲求だけではなく、「自己実現」欲求をもしっかりと引き出していくことによって、経営者の想いと従業員たちの想いが相乗効果を発揮していきます。
さいごに
2002年から20年たった現在の方が、「想い」や「理念」の重要性は増しています。
工業化社会、情報化社会を経て、現代は「自己実現化社会」に進んでいると言われています。
ひとりひとりが、それぞれ大切にしていることを大切にしあいながら、生活も人生も豊かにしていく社会です。
実際、街中や普段のビジネスを見渡してみても、BtoCであれ、BtoBであれ、「想い」や「理念」というものに、共感するひとたちが多くなっていることも、あなたも感じているのではないでしょうか。
渋沢栄一翁は「論語と算盤」と教えてくれていますが、時代は変わっても、普遍的なものは普遍的なのですね。
もちろん、そんな大きな時代的の話を別にしても、身近な経営者やリーダーや、そのもとにいる従業員やメンバーたち。
やっぱり、その人たちらしくイキイキ仕事している人たちって、すんごい魅力がありますよね。
「まさにその人!」という、いろんな発想やアイデアで、わたしたちをよろこばせてくれます。
あなたの想いにまっすぐになりましょう。
探求しましょう。
それでいいのではなく、それが、卓越した経営にとっていいことなのですから。
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執筆者紹介
オフィスオントロジー
代表 友成治由
人と組織の可能性と創造性を引き出すメンター
人と会社を伸ばすメンタリングの専門家
10年超にわたる起業家育成や変革人財育成経験から得た実践知と、意欲心理学によるチェンジメンタリングで人が本来持っている意欲、可能性、価値を引き出す。
主体性/リーダーシップ開発、メンター育成、メンター制度構築、チーム活性化などを支援。
哲学存在論専攻。
宮崎県出身。今もなまりはとれない。
経営メディア『経営プロ』にて執筆コラム掲載。
コラム「メンタリングで人や組織の可能性を引き出す」など
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