意識変革の秘訣は「場づくり」にあり~トライブを意識せよ
今日のお話を意識すると、取り組み方が大いに変わるかもしれません。
というのは、意識改革~これは人財育成ともイコールだとも思ってもいいですが~は、いくら個人相手にむかっても、ほとんど効果が薄いからです。
これは「なぜ人の意識は変わるのか?」というテーマへの、まず欠かすことのできない回答のひとつだといっていいでしょう。
それが「場づくり意識」。
それを「トライブ」というものを紹介しながら見ていきましょう。
目次
- ○ 意識変革二つのアプローチ。どっちが効果ある?
- ○ 意識は何に影響されるのか?
- ○ 状況的学習論
- ○ トライブという視点
- ・トライブ1
- ・トライブ2
- ・トライブ3
- ・トライブ4
- ・トライブ5
- ○ トライブ段階を上がる際のポイント
- ○ まず何よりもできることは
- ○ 意識変革を、楽しく成功させよう!
- ・執筆者紹介
意識変革二つのアプローチ。どっちが効果ある?
やる気が薄い、仕事への姿勢が甘い、もっと協力しあってほしい…
人の問題は尽きませんよね。
これからは、いかに人を活用するのかこそがパワーとなる時代。
人の自発的な能力や創造性を引き出していけるかが会社や組織の能力とイコールになる「人的資本経営」の時代です。
だからこそ研修や教育の重要性も年々高まってきています。
そんな大きな流れの上で、でも会社の「今」としては、社員達のこの態度や姿勢-つまり意識をなんとかしたいという「痛み」があります。
どんな方針で取り組めば、意識は変わっていくのか。
大きくわけて二つのアプローチがあります。
ひとつは、当の本人、つまり個人向けに意識変革の重要性をわかってもらう、というアプローチ。
たとえば、意識変革の重要性を訴えたり、上司が部下に一対一で聞かせたり。
でも上司としても言い聞かせ方がわからないから、人間関係構築や指導スキルを学んでそれを部下に適用してなんとかしようとしたり、などです。
しかししかし、です。
率直なところ、ここに力をアプローチしても、それほど効果がないと思いませんか?
どうも個人向けアプローチには限界があるのではないか?
もしそんな率直な直観があったら、ぜひ大切になさってください。
実はもうひとつのアプローチのほうが、まずもって重要だからです。
それが、「場」へのアプローチ。
個人が個人に対して何かをする、というのではなく、個人と個人たちが出会うこの「場」をどういったものにしていくか、というアプローチです。
要は「場づくり」なのですが、今以上に場づくりへは重心をおくことをお勧めします。
それくらいに場の影響力には強いものがあります。
意識は何に影響されるのか?
ある意識や態度を、なんらかを教えることによって変えることはできるのでしょうか?
まず明確にしておきたいのは、文脈がないところでは必要な意識や態度を変えることができないことです。
ひとが何らかの意識や態度を取るというのは、それが「絶対的に正しいから」ではなく、「その状況のなかでは良いから」なのですね。
たとえば「時間を守る」という意識、態度(以下、すべて「意識」で統一)。
当たり前で絶対正しいように思われますが、そもそも世界中で電車時刻も秒数単位できっちり守るのは日本だけです。
同じ日本でも、東京と沖縄ではまったく時間感覚は違います。
よく南の島にいくと、「時間がゆっくり流れている」と言いますが、それは時間への意識からくるのですね。
いやいや、それでもビジネスにおいては「時間を守る」は大切でしょう?
そうおっしゃられるかもしれませんが、まさにそこなんですね。
「ビジネスにおいては」という状況、文脈においてはじめて、「時間を守る」意識が優先度の高い意識として訴えられるわけです。
余談をいえば、この日本においてだって、時間を守る国民になったのは明治時代の中期以降なんですね。それまでは「日本の労働者は時間を守らない」で愚痴を言われていたくらいなので。資本主義化の国際競争の中、「時の記念日」の制定などあれこれしていった結果、時間を守る国民になっていったというプロセスがあります。
その良し悪しは別にして、意識とは文脈、状況の中で育てられるという面が非常に強いものだ、ということです。
歴史学、社会学的にもさまざまな類人猿がいる中、ときには人類より体格の良い力のつよい類人猿もいる中、今の人類だけが生き残ってきたのは、この「社会性」にあると言われています。
人間は生まれながらに「群れて生きる生き物」、つまり「場の中で生きる生き物」なのですね。本能的に人と人との関係性こそが自分の生きる道であることが刻み込まれているのです。
状況的学習論
たとえば業務知識や業務スキルというものは個人でもどんどん発達させることができます。
現代ならば、リアルだけでなくオンラインでも学ぶことができますから、随分と可能性は広がりました。
しかし、意識の変化や成長については、どうしても場が必要です。
その場があるから、その場に必要だから、その場で自分が活躍するために必要だから、その意識をみずから変え、みずから育てていくことになるのですね。
こういった意識に関する広い意味での学習を状況的学習(situated learning)と言います。場におけるさまざまな状況から、必要なものを学んでいくことで、その場に必要な意識を変化、発達させていくのですね。
レイブとヴェンダーは、『状況に埋め込まれた学習』という本で、「学習とは実践コミュニティへの参加の過程である」と述べています。
たとえば、会社に新入社員が入ってきて、さまざまに学んで一人前に成長する。
これは単に知識やスキルを学んだ、仕事ができるようになった、というものではなく。「会社というコミュニティに参加の度合いを深めていった」というわけです。
知らない土地に引っ越したら、次第次第にその土地の文化や風習になじんでいくように、友達グループが変われば生活習慣も変わるように、そのコミュニティ=場への参加度合いが、意識変化や成長というわけです。(もちろん、成長だけではなく衰退もありますが)
言われてみれば当たり前に感じますよね。
そう、あらためて、その「場の影響力」の当り前さのすごさをここで共有できるとうれしいです。
トライブという視点
ここで、トライブ、という考え方を紹介します。
トライブ(trive)とはそのまま訳せば「部族」という意味なのですが、組織論の中においては「ある文化集団のグループ」という意味になります。
会社とは「ある特定の文化を共有している集団」というわけですね。
会社や組織に入るとは、その文化集団に参加する、ということになります。
『トライブ―人を動かす5つの原則―』では、会社や組織によって5つのトライブに分けることができると言っています。
その社員やスタッフは、トライブがもっている文化や雰囲気に影響を受け、自己意識そのトライブと切り離せないほど絡み合っています。
意識変革の第一歩は、まず自分たちがどんなトライブの中にいるのかに気づくことから始まります。それによって、これから目指すトライブ像が見えてくるのですね。
トライブ1
最初のトライブの雰囲気は、「絶望的な敵意」です。各々がそれぞれ孤立しており、会社や人生はダメなものなんだだと思っている状態です。
「こんな会社はダメだ」
「一刻も早く辞めたい」
「周りダメなやつばかり、関わりたくない」
そんな言葉で満ちている会社です。
孤立をして他者を原則信頼していないので、モノの見方はいつも敵対的であり、自分もこの場も最低な場だと思っています。
仮に会社にいる理由を探すとしたら、純粋に「金だけ」になるでしょう。
極端に感じられるかもしれませんが、もしかしてそんな要素ありませんか?
トライブ1の場にいると、その感覚が当たり前になりますから、知らず知らずにだれがも、自分も影響されてしまいます。
トライブ1にいることに気づいたら、少しでも他のコミュニティに参加して別の文化や世界があることを体験したり、別のトライブにいる第3者を挟みながら孤立したもの同士の会話を促したりして、「新しいつながり」を作っていくことが大切になります。
トライブ2
トライブ2の雰囲気は、「無気力な犠牲者」です。集団否定まではいかなくとも自分は犠牲者だと思っている人たちが多い文化です。いろんなアイデアやチャレンジをやっても、やっぱりダメだ、どうせだめだ。もっと会社が、組織がちゃんとしていれば。
孤立とまではいかなくても、会社や組織と「分離」している感覚をもっています。
結構多いのではないのでしょうか?
この段階のトライブに対しては、「わたしたち、できるかも」が大切になってきます。
この段階にいるひとたちは、よき変化を求めているひとたちとも言えます。
今は分離の状態なので、たとえば一人ずつ対話を増やして仲間関係をつくりながら、わたしたちはわたしたちの努力で、信頼関係もつくれるし、チャレンジもなんとかできる、という体験を積んでいくことが重要です。
小さな成功を体験させてあげたり、次のトライブ3以降の人たちも交えた温かい対話などです。
集団にはいるけど分離した状態から、集団への信頼やつながりを育てていくことが大切になります。
トライブ3
トライブ3の雰囲気は「孤独な戦士」です。
集団にいることは肯定しまいますが、「会社と私」「上司と私」のような、一本線の関係なのですね。
わかりやすくいえば、個人成果重視のビジネスマン、という文化です。
このトライブは他者からの犠牲者感はなく、努力次第でできるともおもっている「個人」の集まりといえます。
会社の中の自分は肯定していますので、一見すると集団のためにやっているように見えますが、内実は「自分はすばらしい」-「でも、あなたはダメだ」という意識を陰に陽にもっています。
ドラマでも、現実でも?よくあるような、活躍している人を貶めたり、陰口で嫉妬して邪魔して見たり、というのはこのトライブ3に多い傾向といえるでしょう。
このトライブ3の文化にいる人は、上昇志向や成長意欲はあるわけです。
ただ、それがあくまでも「個人レベル」のものであり、人間的成長にも限界があります。
トライブ3にとって必要なことは、「真の成功は他者との関係から生まれる」ことを分かってもらうことになります。
高いレベルを求めながら、「本当の成功とは?」を問いかけていきます。
たとえばひとりでは達成できないプロジェクトを勧めてみたり、やってみたり、仲間との関係によってより大きな目的を達成できることを目標にしたりすることです。
リーダー側としては、つねにチームとして評価したり、言葉として「わたし」ではなく「わたしたち」という言葉を使うようにするといいでしょう。
トライブ4
トライブ4までいけば、素晴らしい会社といえるでしょう。
会社や組織に一体感ありますし、個人は会社のために、会社は個人のためにも働いています。
トライブ4の雰囲気は「誇り」と言えます。
会社の中ではそれぞれパートナーシップをもって取り組んでいます。
会社の理念も浸透している、または理念を意識して大切にしている人たちです。
ただし、このトライブ4も最終段階ではありません。
トライブ4の弱点があるならば、「わたしたちはすばらしい」-「でも彼らはダメだ」という意識があるからです。
彼らというのは、自分たち以外の集団ですね。
他社であったり、他のチームであったり。
もちろんトライブ4まで行くこと自体が希少ですから、ここを目指したいのですが、トライブ4の集団が、「次」を目指すとしたら限界に当たります。
トライブ4の「次」とは、もう自分の集団を超えた目標になります。
理念を純粋にしたような、社会全体にとっての目標。
そのためには、理念を共有するもの同士、たとえライバル他社であってもパートナーとして協力し合いながら、ともに同じ星を目指していくことを目指します。
トライブ5
トライブ5になれば、形としては特定の集団をとっていますが、意識としては「社会全体の一員」というような、理念と純粋な価値観だけで仕事をしているような状態です。
すべてがひとつのチームですので「わたしたち」という意識さえない、とこの本では述べています。
トライブ段階を上がる際のポイント
本に従って5つのトライブを紹介してきました。
この5つの区分けが絶対というわけでもないでしょうが、いわれてみれば確かに、トライブ=ある特定の文化集団、としてとらえると自分のいる「場」の特徴が明確になりますよね。
わたしのいる「場」の文化は確かに、孤立-分離-個人-パートナーーワンチームだ、と気づけば、じゃあまずはどんな「場」を目指そうかという指針がわかりやすくなります。
そして、もうお気づきのように、その「場」(つまり会社や組織)の意識の質とは、そこにいる人たちが、いかに「関係性」を意識しているかという度合いになります。
「場の関係性」がよくなればよくなるほど、個人の意識も変化、発達し能力としてもパフォーマンスが高くなります。結果として、より大きな目標やプロジェクトを成功させられる人たちが育っていくことになります。
トライブの段階を上げる際には、ざっといえば以下の2つはポイントであるまとめられるでしょう。
1、トライブはひとつずつ上がることを意識する
いま自分のいるトライブを意識しながら、一挙とびではなく、まず次の段階を目指していきましょう。そうすることで、確実性が上がっていきます。
2、自分のいるトライブの次や上のトライブにいる人に参加してもらう
同じトライブ内の取り組みでは、影響力が強いため、どうしても同じ発想や成果しかできません。他のトライブに参加してその文化を知ったり、また他のトライブにいる人に参加してもらって、他のメンバーにも「別のトライブがあるんだ」ということを知ってもらいながら、意識を広げてもらったりしましょう。
まず何よりもできることは
難しい方法論はそれはそれとしても、まずあなたが何よりもできることは、あなたから「温かい場の関係性」を築いていくことです。
ほんとに日常のささいなこと。
「おはよう」
「ありがとう」
「あれ、今日は元気がないね。疲れてない?」
「みんなのおかげでできたよ」
「大丈夫、君は頑張ってるよ」
本当にささいな温かい言葉をさりげなく、頻度を増やしてかけることからやってまいりましょう。
1対1の関係も「場」ですから、そこには難しいことなんて本来はあまり気にせず、「ふたりのよい場を作ろう」という方針だけでも、関係性がよくなっていくことが実感できるかとおもいます。
会議に入るときも、いきなり「今月の目標は」なんてやっても、「温かい場の関係性」にはなりませんよね。
あえてテクニック的にいえば、会議に入る前にほんの数分でも「最近個人的に楽しかったことを一人1分くらいずつ話そうか」みたいに始めると、ふっと心のつながりができて、前向きな気持ちではじめることができます。(チェックインをする、とも言います。)
意識変革を、楽しく成功させよう!
意識変革とは、大上段に構えるだけではありません。
大上段に構えるだけの「場」になってしまったら、逆に意識が縮こまってしまいます。
人間は「場」によって、ものすごく影響を受ける生き物です。
そして人間は、自分が本当に安心できて認められている場でこそ、能力も魅力も発揮する生き物です。
だから、「あたたかく、楽しい場づくり」というのは、理想論やお花畑論を言っているわけではなく、現実的に戦略的に、もっとも意識変革の成功可能性が高いのですね。
あなたはどんなトライブを目指したいですか?
もちろん意識変革研修やコンサルティングなども、活用できるところは十分に活用してみてください。今の自分達とは違ったトライブの視点を取り入れることができます。
でもまずできることで、また毎日に効果が高いことは「あたたかく、楽しい場づくり」を日常の言葉や接し方からやっていくことです。
さりげないことであれば、今からでも一人からでも始めることができます。
気が付けばチームが一体化していた。
そんな近い未来が現れてきますよ。
応援しています!
こちらも役に立ちます(パワーある組織一体化ができる「アラインメント」の方法)
こちらも役に立ちます(「ノウハウ無料公開。早期に社員をやる気勇気に変貌させる必須6アプローチ」)
執筆者紹介
オフィスオントロジー
代表 友成治由
人と組織の可能性と創造性を引き出す
人と会社が「変わる」チェンジメンタリングの専門家
11年超にわたる起業家育成や変革人財育成経験から得た実践知と、意欲心理学によるチェンジメンタリングで人が本来持っている意欲、可能性、価値を引き出す。
主体性/リーダーシップ開発、メンター育成、メンター制度構築、会社/チーム一体化などを支援。
哲学存在論専攻。
宮崎県出身。今もなまりはとれない。
シェアする